大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山形家庭裁判所 昭和57年(日)974号 審判 1982年12月27日

申立人 加藤洋子

相手方 間長二

主文

昭和五七年八月三日山形家庭裁判所において成立した同裁判所昭和五七年(家イ)第一八六、一八七号親権者変更調停事件の調停はこれを取消す。

理由

1  申立人は主文同旨の審判を求め、その理由として次のとおり主張した。

(1)  申立人は相手方と婚姻し、昭和四九年六月その届出を出した。申立人と相手方との間に昭和五〇年五月八日長男秀樹が同五二年一一月三日長女美佳が出生した。しかし、申立人と相手方との間に仲違いが生じ協議離婚することとなり、右二児の親権者を父である相手方と定め、昭和五七年七月二日離婚届出をした。

(2)  申立人は、離婚後長女美佳を連れて申立人の住所に落着き、昭和五七年七月末ごろ単身東京に出て同年八月一日まで東京で生活していたが、昭和五七年八月二日実家である現住所に移つたところ相手方が八月四日申立人方に来たとき同人から山形家裁で二児の親権者を申立人に変更する旨の調停が成立したことを知らされた。

(3)  申立人は山形家裁に事件本人らの親権者変更申立てをした事実はなく、又右変更申立を第三者に委託した事実もないのであるから何者かが本件申立人の氏名を勝手に冒用して無効の調停申立てをしたものである。従つてこれに基づいて成立した調停は民訴法四二九条、四二〇条一項三号を類推適用して取消されるべきものである。

2  よつて審理するに、申立人の主張する事実および次の事実を認めることができる。相手方は、申立人と離婚後長男、長女の親権者になつたものの、長女は申立人に引き取らせ、長男を自分の実家に預け自分は愛人の大竹義子(三〇歳)と同棲していたが、同女と正式に婚姻するには前記二児共申立人に親権者を変更し、身軽になつた方が得策と考え、右大竹と謀つて同女を申立人の身代りとして親権者変更の調停の申立をすることを企てた。そして昭和五七年七月一九日相手方は右大竹を申立人に仕立て同女をして本件調停の申立をさせた。同年八月三日の調停期日には、相手方と大竹が出頭し、大竹はあたかも申立人であるかのごとくふるまい、調停では親権者変更につき直ちに合意がついたので、情を知らない調停委員会としてはその合意にもとづき本件調停を成立させてしまつた。その翌四日相手方は長男を連れて申立人方を訪れ、申立人に対し調停調書謄本らしきものをちらつかせながら「裁判所で長男、長女の親権者の変更が決まつた」旨告げ長男を置いていつてしまつたので、不審に思つた申立人が当庁に電話をして来た。そこで当庁係官から直ちに相手方の本籍地の市役所(天童市役所)に電話したところ、たまたま相手方と大竹義子が同市役所の窓口に来ていたところであり、事情を知らされた同市役所吏員が相手方からの親権者変更の届出を受理するのを拒否した。その時、当庁係官は市役所吏員の協力で相手方を電話に出してもらつて事実を問いただしたところ、相手方は「調停の際出頭したのは申立人に間違いない」旨弁解したが、直ちに裁判所へ出頭するようにという係官の指示に対し、了解した旨の返事をしたが、結局出頭しなかつた。それ以来相手方は居所不明に陥つている。相手方は、○○連合○○一家○○会○○○○○○組組員であり、当時組を脱退したい意向を組長に伝えていたが、受け入れられず、大竹との同棲も解消し、身を隠している模様である。なお、申立人は二児を養育することができないことから長男を相手方の姉方に預けたが、同年一一月二四日相手方は突然申立人方を訪れ、話し合いの結果、長女は申立人、長男は相手方が親権者となる旨事実上合意が成立した。以上の事実を認めることができる。

3  以上の事実関係にてらせば、本件調停は真実申立人から申立てられたものではなく、他人が恣に申立人の名をかたつて申立てたものであつて合意も当事者でない者がなしたのであるから無効であることは明らかである。しかし、いやしくも調停が成立したことになつている以上、当然無効として扱うのは妥当ではなく、何らかの方法で本件調停を取消すべきところ、当裁判所としては、原裁判所が準再審の申立により、再審の結果本件調停を取消すべきものと解する。すなわち、本件は乙類審判事項についての調停であり、このような調停は成立すると確定審判と同一の効力を有するものであり(家審法二一条一項但書)、一方審判には即時抗告が申立られること(同法一四条)になつていて、即時抗告をもつて不服を申立てることのできる決定に対しては民訴法四二〇条にかかげる事由があるときは再審に準じたいわゆる準再審の申立をすることができ、その手続で確定決定を取消すことができることになつている(民訴法四二九条、四二〇条)ことから、結局家審法七条、非訟法二五条により本件のような乙類審判事項についての確定調停についても民訴法四二九条を準用して準再審による調停取消の申立てができるものと解するのが相当である。そうすれば、本件の場合は申立人が調停において正当に代理されなかつたことに帰するから民訴法四二〇条一項三号の再審事由があることになり、前叙のとおりの審理結果にてらせば、申立人の本件準再審の申立は理由があるものと認められるので本件調停は取消されるべきである。

よつて、民訴法四二九条、四二〇条一項三号、家事審判法一四条、二一条一項但書により主文のとおり審判する。

(家事審判官 穴澤成巳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例